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眼球運動訓練−eye movement訓練−

眼球運動訓練とは−eye movement 訓練−

眼球運動訓練という言葉から、あなたはどのようなイメージをもたれますか。実際にどのような効果があるのか、眼を動かすだけの訓練ではないかなど、さまざまなイメージをもたれるに違いありません。

では、ここで、すべての基本となる眼球運動訓練について、その背景と訓練方法について述べたいと思います。

眼を有効に活用するための4つの技術

多くの専門書は、ロービジョンの方が日常生活のなかで自分の眼を有効に活用する方法として4つの技術についてふれています。実際のところ、この4つの技術を有効かつ効率的に習得するためには、眼球運動訓練のあとに実施することが望ましいと思いますが、その点についてはふれられていません。さて、この4つの技術とは何でしょうか。

スポッティング法

これは、ある動かないものに対してすばやく焦点を合わせて見るための技術です。たとえば、部屋のなかで壁にかけられている時計を見つけて、すばやく焦点を合わせて見る技術のことをいいます。

トレーシング法

これは、動かないものに対して焦点を合わせて追視するための技術です。たとえば、教室で自分の席に座り、黒板に書かれている文章を読むときには、文字のひとつひとつを眼できちんと追っていかなければなりません。このような動かないものに対して、自分もまた静止した状態で追視する技術のことをいいます。

トラッキング法

これは、自分が動いているまたは静止している状態で、動いているものに焦点を合わせて追視する技術です。たとえば道を歩いているときに、背後から通り過ぎる自転車や自動車を自分の眼でとらえて追視する技術のことをいいます。

スキャニング法

これは、部分から全体をつなげて見るための技術です。たとえばポスターや地図を見るときに、その全体がどうなっているのか、部分から全体へあるいは全体から部分へと、自分の眼で探索する技術のことをいいます。

さて、日常生活のなかで自分の眼を有効に活用するためには、この4つの技術の習得が必要です。そして、この4つの技術を習得するために、眼球運動訓練があるのです。

眼球運動訓練の概要

眼球運動訓練では、日常生活で眼を有効に活用するために必要な4つの技術の習得に向けて、まず、大きく分けて3つの眼の動きについて個々に訓練します。また、補助具の使用の有無にかかわらず、訓練は継続して行います。

眼球運動訓練で主に用いるのは牛乳パックです。まず簡単に手に入れることができますし、文字の種類が豊富でコントラストがはっきりしているものが多く視標としても見やすいことから、この訓練に適していると考えています。

牛乳パックだけでなく、デザインがよく、明度対比、色相対比、彩度対比が優れたもので、文字の大きさや書体の種類が豊富なものであれば、何を用いても構いません。文字が使えない場合は、絵や図でもそれが何であるかがわかるものであればそれを用います。小さなお子さまの場合は、キャラクターの絵や図でも構いません。

文字や絵、図などを用いることができない場合は、赤、黒、白などの原色のボールを用いることでも同じことができます。また、ペンライトを用いることもできます。ペンライトにはカラーセロファン紙を巻いて光を見やすい色にします。いずれの場合にも、同じ効果を得ることができます。

また、訓練に用いる視標は、日常的に簡単に手に入れられるものであれば何でもかまいませんが、実際にロービジョンの多くの方には文字を読みたいという欲求が切実であることから、私は、文字の種類が豊富でコントラストがはっきりしたデザインの牛乳パックでのトレーニングを提唱しています。

色々なフォント、大きさ、色を用いた文字の例

ゴシック体の文字の例
明朝体の文字の例

それでは、これから3つの眼球運動訓練について、ひとつひとつ述べていくこととしましょう。

滑らかな眼球運動−smooth pursuit eye movement−

眼球運動訓練ではじめに取り組むのが、この滑らかな眼球運動です。眼球は水平方向では比較的スムーズに動きやすいので、まずは眼球を水平に動かす訓練を中心に行います。

眼球を水平方向に動かす

準備

a)牛乳パックは1リットルサイズのものを用意します。文字や図柄のコントラストがはっきりしていて、明朝体やゴシック体など文字の種類や大きさがさまざまなものを選びます。

b)牛乳パックを展開して1/4に切り離しそのうちの1枚を使います。

(1)牛乳パックを顔の正面に、眼の前から約30cmのところで左手で持ちます。
(2)いちばん見やすい大きさや色の文字を選んでください。いちばん大きな文字でもかまいません。また、コントラストがはっきりした見やすい色の文字を選んでください。
(3)選んだ文字のひとつに焦点をあわせて見てください。この文字を視標とします。
(4)視標に焦点をあわせてきちんとした文字として認識できる状態を保ったまま、牛乳パックを左の方向に動いているかいないかわからない程度の速さでゆっくりと動かします。
(5)視標を眼球だけで追視します。このとき頭を動かさないように注意してください。
(6)牛乳パックを左端まで動かして、追視できる限界まできたと感じたらそこで止めます。はじめのうちは少し痛いかなと思われるところで止めます。
(7)そのまま約10秒、視標に眼を止めたままでいてください。
(8)牛乳パックを左手に持ったまま、左端から右の方向にゆっくりと同じように動かします。
(9)視標を眼球だけで追視します。このとき頭を動かさないように注意してください。
(10)牛乳パックを顔の正面まで動かしたら右手に持ちかえます。
(11)そのまま牛乳パックを右端まで動かして、追視できる限界まできたと感じたらそこで止めます。はじめのうちは少し痛いかなと思われるところで止めます。
(12)そのまま約10秒、視標に眼を止めたままでいてください。
(13)牛乳パックを右手に持ったまま、右端から左の方向にゆっくりと同じように動かします。
(14)視標を眼球だけで追視します。このとき頭を動かさないように注意してください。
(15)牛乳パックを顔の正面まで動かしたら左手に持ちかえます。

*注:(4)〜(15)のプロセスを繰り返し行います。時間の目安は1日1回5分間程度とします。

POINT

はじめのうちは、眼球が進行方向から戻ってしまったり、戻ろうとしたあまりに、ぽんぽんと先に進んでしまうことがあります。このような場合には、眼球がどのように動いたかをもう一度、試してみてください。自分でよくわからない場合には、家族や周囲の方に見てもらうとよいでしょう。

実際には、自分が思っている動き方と違うことに気がつくことができれば、自分の眼球の動き方に対して、もっと自然に興味がもてるようになると思います。また、右端や左端で眼を止めているときに、眼球が元に戻ろうとする動きを感じることがあります。このような場合にも、自分の眼がどのような動き方をしているのかを意識してください。

左右の視力や視野が同じ程度で維持されている場合には、視標を顔の正面から左へと動かすときに、右眼で追視しているつもりが左眼で追視しているということがあります。無意識のうちに左右の眼が交代してしまうのです。そんなことはないと思われるかもしれませんが、納得がいかない場合は何回か確かめてみましょう。自分で要領がつかめない場合は、家族や周囲の方に片方の眼を隠してもらうとよいでしょう。そうすることで、気づくことができると思います。

さて、これらのことを十分に意識してきちんと追視できるようになったら、牛乳パックを動かすスピードをあげていきます。早く動かしても、視標の文字にきちんと焦点を合わせて、両端の限界まで追視できるようになったら、次に、眼球を垂直方向に動かす訓練を行います。

眼球を垂直方向に動かす

●準備

水平方向の運動と同じように準備してください。同じ牛乳パックを使用してもかまいません。

(1)〜(3)水平方向の運動と同じ要領で行います。
(4)視標に焦点をあわせてきちんとした文字として認識できる状態を保ったまま、牛乳パックを上の方向に動いているかいないかわからない程度の速さでゆっくりと動かします。
(5)視標を眼球だけで追視します。このとき頭を動かさないように注意してください。
(6)牛乳パックを目線よりやや上の位置まで動かして追視できる限界まできたと感じたらそこで止めます。はじめのうちは少し痛いかなと思われるところで止めるとよいでしょう。
(7)そのまま約10秒、視標に眼を止めたままでいてください。
(8)その位置から下の方向に牛乳パックをゆっくりと同じように動かします。
(9)視標を眼球だけで追視します。このとき頭を動かさないように注意してください。
(10)牛乳パックをお腹のところまで動かして、追視できる限界まできたと感じる手前のところで止めます。
(11)そのまま約10秒、視標に眼を止めたままでいてください。
(12)牛乳パックをさらにお腹の方向に引くようにして、視標の面が上向きになるように動かします。追視できる限界まできたと感じたらそこで止めます。
(13)その位置から上の方向に牛乳パックをゆっくりと同じように動かします。

*注:(4)〜(13)のプロセスを繰り返し行います。時間の目安は1日1回5分間程度とします。

●POINT

眼球を上の方向に動かす場合には、その限界は目線よりやや上の位置でとくに問題はありません。日常生活のなかで、視線が上の方向で用いられることは少ないので、それ以上に眼球を動かす必要はあまりないのです。しかし、下の方向に動かす場合は、お腹のところまでその限界を引きのばす必要があります。これは、視野に狭窄がある方が下方視の不安を訴えることが多いためですが、その不安を軽くするための解決策のひとつでもあります。

この運動では、頭を動かさずに眼球だけで垂直方向に見ることができる範囲を知ることができます。下の方向を見るためには、まず眼球をお腹のぎりぎりのところまで動かします。そこで顎を引いて頭を下に向けます。すると、足下まで見ることができるようになります。

このように、水平方向や垂直方向に滑らかに眼球を動かすことができるようになると、テーブルの上のものを探したり歩くときに足下を探索するなど、日常生活のなかで、ものを見つけたり探索するほとんどのことが、補助具を用いることなく自分の眼で楽にできるようになります。

また数年前までは、さらに斜め上から斜め下への眼球運動を提示していましたが、現在は視標を波状に動かして、前後左右の方向と左右上下の方向にアトランダムに動かす方法をとっています。

飛越的眼球運動−saccadic eye movement−

一般的に、周辺視野に少しでも対象が入ると、わたしたちはそれを眼の中心でとらえようとします。飛越的眼球運動とは、このように周辺視野である対象をとらえた瞬間に、眼の中心でその対象に焦点を合わせて、それが何であるかを確認するための眼球運動です。

■眼球を飛越的に動かす

●準備

a)牛乳パックは1リットルサイズのものを用意します。アルファベットの文字や数字があるものを選んでください。
b)牛乳パックを展開して1/4に切り離します。
c)展開した牛乳パック4枚のうち1枚を残して、アルファベットの文字や数字を切り抜きます。この文字や数字は、見やすい大きさや色のものを選んでください。
d4)残りの1枚を台紙として使います。台紙は長い方を横にして、裏面の白地のところに切り抜いた文字を横1列に貼ります。この文字や数字が視標となります。

(1)視標を顔の正面に、眼の前から約30cmのところで手に持ちます。
(2)まず、左端の文字を見てください。次に、右から2番目の文字を見てください。このとき頭は動かさないようにして、眼球だけをぽんと飛ばすように動かして、すばやく焦点をあわせて見てください。
(3)その文字の場所が合っているかどうかを確認してください。
(4)次は、左から2つ目の文字を、同じように眼球だけをぽんと動かしてすばやく焦点をあわせて見てください。
(5)その文字の場所が合っているかどうかを確認してください。
(6)では、右から○番目、左から○番目と自分で文字を選んで、同じように眼球だけをぽんと動かして、すばやく焦点をあわせて見てください。
(7)選んだ文字をきちんと見ることができたかどうか、その文字の場所を確認してください。

*注:(6)〜(7)のプロセスを繰り返し行います。時間の目安は1回5分程度とします。

●POINT

この運動は毎日行う必要はありませんが、眼球をぽんと飛ばすように動かす感覚がつかめるようになるまで、随時、行うとよいと思います。また、ひとりで行うと意図的になりやすいため、家族や周囲の方に協力してもらって文字を探すのもひとつの方法です。

■音を併用する

実際の訓練の場では、音だけでは視覚的な確認があいまいになりますので、名刺サイズのアムスラーチャートを用いて、音と併用しています。

両耳に問題がなければ、音の方向性のずれを検出することができます。そこで音をポンとさせ、その音のしたところにアムスラーチャートを提示します。音の位置を変えながら眼球を適切な量だけ動かして、このアムスラーチャートをとらえます。

■音がする方向に眼を向ける

視野に狭窄がある方は、その周辺視野が狭いことから、実際の日常生活においては、このような飛越的な眼球運動をすることが難しい場合があります。そのため、視野に入らない周囲の情報を得ることが難しくなっています。では、どのようにしたら情報を得ることができるのでしょうか。このような場合には、周囲の音を利用します。周辺で音がすれば、少なくともその方向には眼を向けることができます。

では、ここで簡単な実験をします。これは屋内でも屋外でも、周辺で音がするところであればどこでもできます。

(1)まず、眼を閉じて、耳を澄ましてください。
(2)はじめに特徴のある音をひとつ探して、その音がする方向に指をさしてください
。次に2つの音を探して、それぞれの音がする方向に指をさしてください。 (3)それぞれの音がする方向に、眼を向けてください。

●POINT

目覚まし時計や携帯電話など、音がするものをいろいろなところに置いて試してみるとよいと思います。また、家族や周囲の方に協力してもらって、いろいろな音を鳴らしてもらうのもよいでしょう。はじめのうちは、音源に向かって視線が届かなかったり行き過ぎたりすることがあると思いますが、慣れれば次第にできるようになります。

左右の聴力に問題がなく、音源が決まった位置にあり反響も少なければ、自分の眼や耳できちんと音を追いかけることができます。つまり、左右の聴力がほぼ同じであれば、音を正中線でとらえることができるのです。

しかし、左右の聴力の差が3デシベル以上の場合には、距離感にずれが生じることがあります。また、普段の生活のなかで、ものが見やすいように体を傾けていたり、首を傾ける習慣があったとしたら、そのことが原因でずれが生じることもあります。このような場合には、まず、体の中心軸を直すことが必要です。

■日常生活のなかで音を利用する

このような練習をする場合には、実際に日常生活のなかで聞こえる音を利用すると効果的です。たとえば、公園から聞こえる靴音や自転車のチェーンがこすれる音、子供の声などから特定の音に注目して、その音が聞こえる方向に眼を動かしてみます。このように、周囲の音を日頃から注意深く聞くことで、その音源を自分の眼や耳でとらえることができるようになると、たとえば、あなたの前を突然に横切ったり背後から出てくる人や自転車などに対して、胸がはりさけるような緊張感を覚えることも少なくなります。

この方法は、実際の飛越的な眼球運動とは異なるのですが、このように音を活用することによって、視野の周辺にあるさまざまな情報を得ることができます。つまり周辺視野の情報を眼ではなく音で得るのです。そのため、実質的には、飛越的な眼球運動に相当するものであると考えます。

ジャンプコンバージェンス−jump convergence−

ジャンプコンバージェンスとは、ものとの位置関係や距離感を養うための訓練です。このジャンプコンバージェンスは眼科学では輻輳と言われていますが、私の場合、この輻輳の概念とはニュアンスが異なるような気がするため、そのままジャンプコンバージェンスという言葉で表します。

左右の視力に極端な差がなく、視野が約20度〜30度あれば、ものの奥行きに対してはそれほど違和感を覚えることなく見ることができます。しかし、左右の視力に差があり、視野も狭いと、そこにずれが生じることがあります。

たとえば、テーブルの上の湯のみを取ろうとしたときに少し手前で取りそこなったり、手があたってしまうようなことはありませんか。これは、片方の眼の視力が低いために、その距離感が微妙にずれていることから起こります。

■ものとの位置関係や距離感を養う

●準備

a)牛乳パックは1リットルサイズのものを用意します。文字や図柄のコントラストがはっきりしていて、明朝体やゴシック体など、文字の種類や大きさがさまざまなものを選びます
。 b)牛乳パックを展開して1/4に切り離して、そのうちの1枚を使います。

(1)牛乳パックを、顔の正面に、眼の前から約60mのところで手に持ちます。そこで、いちばん大きくて見やすい文字といちばん小さくて見づらい文字を意識してください。
(2)いちばん大きくて見やすい文字に、焦点をあわせて見てください。
(3)その文字に焦点をあわせたまま、牛乳パックを動いているかわからない程度の速さで眼の前にゆっくりと近づけます。
(4)その文字の大きさを意識して見ながら、どのように拡大されていくのかを実感してください。
(5)牛乳パックを眼の前から約5cm〜20cmのところまで近づけます。そこで、最初にいちばん小さくて見づらいと思った文字に焦点をあわせて見てください。
(6)その位置では、その文字がどのくらいの大きさに見えるのかを意識してください。
(7)その文字に焦点を合わせたまま、牛乳パックを動いているかわからない程度の速さでゆっくりと遠ざけてください。
(8)その文字の大きさを意識して見ながら、どの大きさになると見えなくなるのかを実感してください。

*注:(1)〜(8)のプロセスを繰り返し行います。時間の目安は1回5分程度とします。

●POINT

この運動は毎日行う必要はありませんが、牛乳パックの文字と自分の眼との位置関係や距離感がつかめるようになるまで、随時、行うとよいと思います。

ここでは、その文字の見え方によって、牛乳パックと自分の眼との位置関係や距離感を養います。大きさの異なる文字を見ることによって、どの大きさの文字がどの距離でどのように見えるのか、また、どのように大きさが変化していくのかを実感します。

実際には、牛乳パックや印刷されている文字の大きさが変わることはありませんが、自分と牛乳パックとの距離が変わることで、その文字が大きく見えたり小さく見えたりします。この距離が見え方に大きく影響するのです。

また、このように自分とものとの位置関係や距離感が把握できるようになると、補助具を効率的に用いることもできるようになります。

■眼球運動の進め方のポイント

このように眼球運動は3つの訓練で構成されています。ある程度までは段階をふんで行いますが、ひとつの運動を完全に習得するまで次の段階に移行しないわけではありません。自分で眼球がスムーズに動くようになったと思ったら、次の段階に進んでください。自分が納得のいくかたちで、順次、展開していくことがポイントになります。

1日1回5分程度の練習を約1ヶ月継続すれば、これらの眼球運動は、ほぼできるようになります。視力センターでは1週間に2時間の訓練を実施していますが、そのうちの10分程度の時間を使って、指示したとおりに訓練できているかどうかをチェックしています。

また、訓練期間のあいだには必要な補助具の選定も同時に実施しています。

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