今年最後のロービジョン訓練を行った。訓練を実施したのは50代の男性で経営者だった人。網膜色素変性症が進み、仕事を廃業してセンターの利用となった。視野は半径10°の求心性狭窄で横に広い楕円で、視力は5m視力で0.1。25cmの近見視力は0.15。10月中旬から訓練を始めて2ヶ月。この時点では1分間に135字/分だったが、現在365.1字/分読めるようになった。
この人に定点観測の仕方を説明した。東京LVSTの訓練会に一度でも来られた人なら「カレンダー法」と言えばピンと来るかも知れない。そう、普通のカレンダーを利用してのものだ。
視野の説明をいつもどおりしながら、住友生命が作成しているユニバーサルデザインのカレンダーを使い、横3ヶ月分×縦4ヶ月分計12枚をセロファンテープでつないで壁に貼れるように加工した。大きさは、縦132.4cm、横106.2cm。1枚のカレンダーの大きさが縦33.1cm、横35.4cmのもの。実際に、できあがったカレンダーを壁に貼り1m、2m、3m、5mと距離を伸ばして視野に入る情報量を意識してもらった。
1mではカレンダー1/12程度、つまり1枚のカレンダーが視野のおおよその範囲だが縦は少し欠けるとのこと。3mでは横は全部入るが縦が欠け、5mでは縦も横も全部入ることを確認した。
40分ほど徹底してカレンダーを用いて説明すると、距離と視野の関係が自然と意識されてくる。そして、カレンダーを確認するのに距離が近いと眼を大きく動かす必要があること、離れれば離れるほど少しの動きでよいことが本人自身解ってきた。更に足元が確認しにくくなるのは視対象の距離から1.5mを切るあたりと具体的な距離感も感じられ、視野の理解が一段と進んだ。
ここで、今一度、定点観測のことを思い出してほしい。前に定点観測で嵐山の紅葉の話をしたけれど、視野の意識化においても定点観測が必要なのだ。自宅で壁から5mの距離にカレンダーを貼り近づくのは難しいが3m前後なら何とか工夫すれば出来るだろう。その中で、1m、2m、3mの見え方を幾度となく体感するのである。この定点観測を丁寧にすればするほど距離感がつかめるようになる。と同時に眼を主体的に動かす際の距離との関係が見えてくる。手前ほど大きく動かす必要がわかる。
同じ条件で何回も意識化して見ると、見るたびに新しい発見がある。これが視野を意識して実際的に使う上で大切なのである。この50代の男性も、改めてカレンダー法に驚いていたようだ。
新しい年、カレンダー法に基づく視野の意識化のため壁にそれぞれが加工したカレンダーを貼ってみてはいかがだろうか。