Sさんの訃報を耳にした。Sさんには、直接お出会いしたことは一度もない。
知り合いのMさんを通じて間接的に、その人となりを知っているに過ぎない。けれども、僕自身は随分支えていただいた感がある。
 まだ、若かりし頃で、ロービジョンケアに対し駆け出しではあるが熱い情熱を抱いていた頃のことだ。全国各地の当事者のロービジョンケアの、あるいは、専門家の勉強会に要請があったら断らずに手弁当で歩き回っていた。先のMさんが見かねてくれたのだろう。Sさんから飛行機の優待券をもらってくれた。結構、Sさんは毒舌家だったと聞いているが、折に触れてSさんからその優待券を調達してくれた。
 思えば、有形無形の「心遣い」にどれほど支えられてきたのかを、その訃報を聴いたときに思った。その時々は、精一杯走っているので、気づけないことも多い。あらためて、立ち止まって考えたりするのは、悲しいけれどその人がいなくなってからだ。
 いま、専門家の一人として活動できる素地を確かに創っていただいたのだと感じ、心の底から感謝するとともに、故人の冥福を祈念したい。