19日から23日の予定で、視覚障害者の現職継続のための集中訓練を行っている。訓練を受けたいと職場に申し出たところ交渉の中で2週間休暇を取って訓練を受けることは認めてもらえなかった。何日なら許可してもらえるか交渉したところ正味5日間なら訓練を受けて良いこととなり、本人の意向を受けて期間設定をした。
この人は、網膜色素変性症で視野が求心性視野狭窄半径10°以内、裸眼視力は右0.08左0.06で矯正視力は両眼とも0.7である。この状況だと訓練施設に入所して訓練するまでもないと判断する人たちもいる。しかし、現実の場面で困っている。書類の作成に手間取る。ものにぶつかる。夜間足元が不安で歩けない。それもすべてが不安ではない。けれど今まで出来ていたことが出来なくなると、嘘のように「とらわれ人」になって固まってしまうのである。
訓練を請け負って3日目。夜間歩行の状況から考えてみよう。初日は規則正しく並ぶ街灯を活用してまっすぐ歩いて見ることを提案。杖や懐中電灯は使用せず出来るだけ遠くに視線を置くように提案。ご本人が眼を動かすことに専念できるよう「危ないときは止めます」とのことで実施。まっすぐ歩けますねとの言。遠くに視点を置くと「光の関係でしようかね、まっすぐな道である感じがします。奥の光は信号機の赤?」
実際に100m先の信号機をキャッチしていた。本人自身が眼の使い方次第ですねと驚いていた。
2日目。遠くの街灯や景色に集中し足元は見ないようにし、足元の不安を取り除くため杖を縁石にあてて歩いてみることを提案した。杖の扱いはぎこちないが、足元を気にせずに歩けること、歩速が早くなっていること、先々の情報を眼で確実に取りやすくなることなどを本人は感じたようだ。「夜間の方が歩きやすい気がします。目印に集中しやすいですね」との言。
そして3日目の今日。杖を用いず懐中電灯と遠くの街灯や景色に集中して歩いて見ることを提案した。すぐに、「杖、使っていいですかね」と言われたので、もう少し色々試してみようと提案。反射材、路側帯、縁石等々に光を当てて歩く方法も提示した。「懐中電灯だと集中できないですね」「むしろ杖だと、足元の不安がないから、目が使えますね」実際に歩いてみて、こんなに違うなんて思いもよりませんでしたと。
ここで「とらわれ人」と言ったことを思いだしてほしい。自分なりに改善策を求め様々に努力していたとしても、ある種のイメージにとらわれると思考が「固まって」しまうのだ。夜は歩きにくい。遠くは見えない。懐中電灯の明るいのを使えばなんとかなる。
もちろん、本人の生理的な機能から考えると難しいこともあるのだが、一端リセットして取り組んでみることも大切だ。その人がなぜ「歩けない」と思っているのか、どう工夫すれば歩けるのかを模索すると、意外と自身の思い込みが制約していたことが多いように思う。
あと、2日間の訓練の中で、ご本人の希望されていることを一つ一つ解決できるかは、ある種腕の見せ所でもある。だが、現職継続をしていく上で周囲の人たちにきちんと理解され、対等な状態で支援も得られるように見え方に沿った工夫と周りを動かす智慧を一緒に見いだせればと考えている。